厭世日記

不思議だったあの、精神科閉鎖病棟についてなんちゃって

一言目

最初に話しかけてくれたのはスミダくんだった。
おそらく私より少しだけ若いだろう外見と、人の良さが滲む好青年だった。
遠慮がちに、「あのう、今日入った方ですか?」と優しい口調で聞いてくれた。私はそれが、関係者以外との初めての会話だった。

簡単な自己紹介をして、「よろしくお願いします」と言った後彼は部屋に戻っていった。久々の会話で、短時間でもかなりの感動を覚えた。私、人と喋った!相手に気にしてもらった、人としての扱いを受けた!少し、自分の尊厳を取り戻した気がする。
昨日までの陰鬱で重く、少ない空気の中から選んで吸うような息苦しさからはすでに開放されていた。

次に声をかけてくれたのはジャージをきたオジサンだった。色黒の彼は椅子に腰掛けて足を組んでいた。新入りの私に向かって「よお、ここはいい奴しかいねえから、安心しな。」と言った。
みんな私を遠巻きに見ているのがわかるが、たしかにそれは排除や不安からの視線ではなかった。
すぐにわかるくらい、その視線には「気遣い」があった。

「話しかけても大丈夫かな?あの子が嫌な思いをすることはないかな?」「どういう子なのかな?なにで入ってきたのかな?」

開放ホールの雰囲気は優しかった。
お互いを傷つけ合うことはないだろう、なにか嫌な思いをすることもないだろうとその時ふわりと思ったのを覚えている。
みんな同じだ、そう思った。